ぐい呑

吉利博之作

 共箱。2000年9月、屋久島の新八野窯(鹿児島県熊毛郡屋久町平内)窯元で購入。吉利さんは優しい目をした背の高い方で、奥様ともどもとても親切にして下さり、手作りの穴窯や蹴轆轤まで見せて下さいました。しかも目の前で箱書きまでして下さったのです!!屋久島に訪れたら、是非立ち寄られることをおすすめします。屋久島の土を使い、薪を使って焼締陶を中心に焼いておられます。自然釉の窯変を狙って様々な工夫をしておられ、平内の海岸で拾った珊瑚を薪に混ぜて焼いたりもするそうで、炎の状態で翡翠のような緑や薄桃色に発色するとのこと、緑に発色した物を実際見せていただきましたがそれも素晴らしいものでした(茶碗。同行の友人が購入)。写真のぐいのみも自然降灰釉をたっぷりとかぶっていて、見込みには胡麻がかかり、胴部に珊瑚による薄桃色の発色を見ることができます。高台も重厚です。隔年で新宿伊勢丹で個展も開かれているとのこと、屋久島まで足を運ぶことのできない方も是非一度その素晴らしい作品群をご覧になって下さい。特に茶陶や花入は、発色も造形もこのうえなく魅力的です。

 帰宅し酒を注ぐと、盃が生命を吹き込まれたごとく一変しました。それは屋久島の磯の潮だまりをそのまま持ってきたようでした。見込みの胡麻は潤いを帯びて苔に変化し、器体から浮き出る長石はフジツボです。今にもイソガニが奥から姿を現し、カエルウオが飛び跳ねてきそうな景観です。夕陽を浴びて入った平内の海中温泉を思い出します。海の幸を肴にこれで一杯。思いはもう屋久島へ、心がうずきます。この名盃、絶対に手放せません。