伊万里祥端手のぞき猪口 江戸時代後期

 これは、僕が初めて古美術店というところに入って、求めたものです。

 職場のすぐそばに古美術店(千葉・K美術)があるのを知っていたが、入ってみようという気になったことなどなかった。しかしある日、酒器はおいているのかな、そんなことがどうしても気になって、店の前まで行ってみた。窓越しに、かたちのいい筒盃が見え、もっと近くで見たいと思っていたら、中で暇そうにしていた店主の親父さんに見つかって、どうぞどうぞと言われてしまったのでした。その盃は見たこともないような風格をたたえて、枇杷色の、渋い貫入の入った、とろとろな釉調の絵唐津立ちぐいのみでした。おぉ・・・値札は、110万円(笑)

 このまま出ていくというのもどこか失礼な気がして困っていたら、コーヒーを入れて下さいました。やきもの、特に酒器に興味をもっていることなどを話したら、奥から出してきてくれたのがこの猪口でした。

 藍の発色がやわらかく、絵が優しい。吉祥文は墨はじきで描かれていてとても細かい。流れるような筆使い、上釉の細かい気泡。胴紐と口縁の濡れたような口紅も可愛らしい。東京の老舗の呉服問屋から出たものと聞いた。たしかにこの雰囲気は、今のものにはない。

 樹冠を見上げると、二羽の鳥が、木々の間を忙しそうに飛び回っている。青いシルエットとなって。器の中で、彼らはたしかに、躍動している。

 結局一時間近くも費やして、お礼を言って店を出た。ふぅん、いい猪口だったなぁ。値段はちょっと人気の作家物の酒杯を買うのと同じ程度。その晩、鳥たちが夢に出てきて(^_^;)、翌日僕の物になりました。

 今ではあまり晩酌に登場させていませんが、たまに取りだしては、いい猪口だなと思っています。