志野茶碗

銘 啓蟄

加藤十右衛門 作

 

 

 京都のある骨董店で、裸で売られていたのを買いました。長石釉がところどころめくれあがり、作者もさすがに出すのを憚られたのでしょうか。でも釉下からふわっと滲み出てくるような、この茶碗独特の桜色、口縁の緋色は素晴らしいし、暴れた釉景色もギリギリの境界線上にある茶碗ではないでしょうか。土、釉薬、造形とも桃山陶芸が強く意識され、憧憬というより執念、情念のようなものを感じます。釉薬をつきやぶって誕生する猛々しい生命、などというと、映画「エイリアン」のようで(苦笑)お茶の気分じゃありませんから、冬眠から醒めた虫が春雷を聞いて地上へ這い出してくるのになぞらえ「啓蟄」と呼んでいます。そろそろ出まわりはじめた桜餅などで一服楽しむことにしましょう。