古唐津盃

桃山時代

銘 ひょっとこ

 

 「ひょっとこ」は「火男」(かまど神)からの転訛した言葉だそうです。民話研究家佐々木喜善という方の『江刺郡昔話』という本に、「ひょっとこのはじまり」という昔話が収録されているそうです。それによるとお爺さんが山へ柴刈りに行き、怪しい穴を見つけるんだそうです。こんな穴には魔物が住んでいるものよ、穴を塞いでしまえ、と刈った柴を全部穴に入れたら、中から綺麗な女性が出てきて礼を言い、穴の中の立派な屋敷に歓待してくれた。帰りにみっともない顔の一人の童を連れて行けと言われ、一緒に家に帰ってみると、この童、臍ばかりいじっている。そこで火箸で臍をつついてみると、なんと臍から金が出た。それでお爺さんの家はたちまち大金持ちに。ところが強突張りなお婆さんが、お爺さんが留守の時にもっと金を出せとガンガン臍をつついたので、その童は死んでしまった。お爺さんが悲しみにくれていると、夢にその童が出てきて、自分によく似た面を作って竃前の柱に懸けておけば、家が富み栄えると教えてくれた。この童の名前がひょうとくと言ったんだそうです。

 この盃の見込みの、窯割れの景色をひょっとこに見立てて楽しんでいます。臍のような高台が気に入って、飲みながらよく撫でているのですが、あんまり撫でると金が出なくなってしまう・・・でしょうか・・・いや、つついているわけではないから、むしろ喜んでくれているかも知れません。発掘伝世品で、私の前は京都の数寄者のお爺さんの愛用品だったと聞いております。ほぼ無傷という、奇跡的なコンディションです。初めての月賦払いで手に入れた、思い出の盃でもあり、現在の一番のお気に入りです。